バスの運ちゃんが道を間違えたこと。

あーあ、あすこの角を曲がらねばならぬのに通り過ぎちゃったよ、どうするんだろコイツ、さあバックかターンか、イヒヒヒヒ、とウキウキしていたのだけど、車は何事もなかったように平然と進み、まあ善いか、俺が降りるのはもうちょい先だからなと余裕をこいていたら、いつの間にか街灯すら見当たらないような山道を走っており、眩暈坂だとかくらやみ通り入口だとか骨壷前だとかいう、勿論聞いた事もないような薄気味悪い停留所がアナウンスされ、気付くと車内には俺以外に誰もおらず、このまま乗っていては拙いのではあるまいかと思うものの喉からはしわがれ一つ出ず、やがてバスは霊柩車のような静けさでピタリと止まり、およそ人間とは思えない何者かが終点ですと云った。同時に明かりが消えた。

というような事は特になかったのだけど、バスが間違った道を驀進したのは本当で、本来の停留所を 2 つほどスルーして正規ルートに復帰していた。途中で乗り降りする人がいたらシャレにならんな、と思ったけど実にどうでも善かった。